能楽師 松山隆之です。

本年、緑翔会 能ノ会の立ち上げを決起し、その名を「 ほのぼ能 」と名付けました。

「ほのぼ能」ノ事

「ほのぼの」には「ほんのり暖かい、ほんのり心暖まる、ほのかに明るい、うすうす。」といった幽玄に近い感覚が詰まった言葉だと思っています。

能楽が皆様の心に「ほのぼのと沁み入る」。そんな想いを込めました。

「葵上」ノ事

立ち上げ初回の公演となる今回の課題曲には 「 葵上 」 を選曲致しました。

この曲のシテは源氏物語の 六条御息所 です。
高貴な女性の執心を映し出すこと、内面の充実による表現が強く求められる一曲です。

源氏物語を主題にする演目は数多ありますが最も有名な曲と言っても過言ではない「葵上」。

その物語は、舞台に一枚の小袖が据え置かれ、これを病床の葵上とする独特の演出から始まります。
光源氏の正妻・葵上は原因不明の病に伏せます。
その原因を明かす梓弓の使い手である巫女は生霊を呼び寄せます。
その正体は六条御息所であり、嫉妬のあまり葵上を責め打つ有様です。
物の怪の正体が明らかとなり、横川小聖は祈祷を行い、あさましい鬼の姿の御息所の生霊と争います。
ついには小聖によって御息所は心を和らげ姿を消します。

この曲は世阿弥(生誕650年)による古作改作説があります。
典拠は『源氏物語』でありますが、筋立ては自由で妖艶な源氏物語的な独創性に溢れています。
賀茂祭での御息所と葵上との間に起きた「車争い」は御息所をシテとするもう一曲の「野宮」にも表現される事件です。
御息所は車と共に心も壊され自身では抑えることの出来ない程の苦しみを抱える事となりました。
分類こそは四番目・五番目と強い表現に属しますが「御息所(先ノ皇太子妃)」の能として「位高い趣向」も楽しめます。

巫女と生霊。
仄暗い世界観を創り出すには打ってつけの人物達の登場。

前場に使用される能面「 泥眼 」は上村松園の「 焔 」の題材になっているエピソードも耳にします。
生霊になってしまう程に源氏への想いに苦しむ御息所の葛藤。
その想いの強さを後場では「 般若 」によって現わされます。

当日には昨年同様に師である芸術院会員・梅若六郎玄祥師、並びに人間国宝・山本東次郎師にご出演を賜り見所の多い一日をご用意致しております。

ご多忙の事とは存じますが、皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

~緑翔会 能ノ会~ [ ほのぼ能 ] 立ち上げ公演

平成25年9月21日(土)   13時開演 16時終了予定
於・梅若能楽学院会館
東京都中野区東中野2-6-14

当日内容

  • 仕舞「鞍馬天狗」 松山絢美(長女・5歳)
  • 仕舞「山姥 キリ」 松山隆雄(父)
  • 仕舞「清経 クセ」 梅若玄祥(芸術院会員)
  • 狂言「伊文字」 山本東次郎(人間国宝)
  • 能 「葵上 替ノ型・替装束」 松山隆之

SS席6,000円  S席5,000円
A席4,000円  学生席(A席のみ)3,000円

その他、お気軽にお問い合わせ下さい。

平成二十五年 八月 吉日                               松山隆之 拝

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